昔話その①
あれはもう、30年近く前の7月だったか…突然知り合いの高校の先生から電話があった。
彼は、私が以前勤めていた塾で学生アルバイト講師をしていたことがあって、その当時、塾の管理職という立場にいた私が、教育学部の大学院生だった彼に、塾講師としての指導(らしきこと)をしたのだった。彼の教育に対する熱意は、一昔前の熱血教師そのもので、二人でよく教育論を交わした。
その後、彼は高校の教員採用試験に受かり、山一つ向こうの公立高校で国語を教えていた。
互いの近況報告をしあった後、何だか申し訳なさそうに彼が言った。
「あの~、実はお願いがあってお電話したんですが…。
高1の女の子を夏休みの間だけ指導してもらえませんか?」
事情を聞くと、彼が担任をしているクラスの女子が不登校気味だという。
彼女は複雑な家庭環境に育っていて、小学校のときから不登校が始まり、小・中学校ともほとんど不登校で過ごしたそうだ。それで、高校の授業についていけなくて学校に来づらくなっているとのこと。
正直、よく公立高校の入試に受かったものだとも思ったけど、そこには高校の裏事情(思惑)があったらしい。それなら、最後まで高校できちんと面倒見なきゃ…と言ってみたものの、それができれば彼もわざわざ私に電話することもなかったはず…。
「とにかく、もっと詳しく事情を教えてくれない?それから考えるよ」
そう言って、私は電話を切った。
数日後、彼が高校の数学教師と一緒にうちの塾を訪ねてくれた。数学教師は彼の担任するクラスの副担任で、2人で順を追って彼女の事情と今の様子を話してくれた。
確かに彼女の生育環境は大変だった。
それは私の理解の範囲を超えていて、今の世の中にこんなことがまだあるのかと愕然とした。
聞けば聞くほど、やり場のない腹立たしさに体が震えた。
(続く)
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